記憶 ―黄昏の蝶―
「しかしな…よくよく見てみると、闇夜の空には綺麗な星が沢山在ってな?青色に光る虫が飛び交っておってなぁ…。次第に怖くはなくなったんじゃよ…?」
じぃさんの話に、興味深く真剣に話を聞く子供。
「…なんで、おじぃちゃんは動けなかったの?なんで、いつも同じだったの…?」
子供の問いに、じぃさんは「ははは…」と優しく笑う。
「…夢の中の話じゃからな、はっきりとは分からんよ?しかしなぁ、わしは「樹」じゃったんじゃないかと思うんだよ…」
「…き?」
「あぁ…、緑色の優しい光を放つ大きな樹じゃった…。だから動けなかったんじゃ。風と友達でな、優しい世界じゃった…。そう思えるまでには、沢山泣いたがの?」
そう…
じぃさんが子供時代に見た夢は、自分が樹だったという不思議な内容だった。
何度となく、その内容をせがんで聞いていたっけな…。
それから、
じぃさんはこう言う。
「…だからなぁ?怖い夢も辛い夢も、よく周りを見てご覧…?何か…気付ける事が在るかもしれないじゃろう…?」
…変わらないな。
変わったのは年齢だけか…。
子供の頭を撫でるじぃさんのしわしわの手に…
そう感じて、切なくなった。