記憶 ―黄昏の蝶―


「…いいえ。皆さんに、そう喜んでいただける事が何よりです…」

俺はそう普段通りに受け答えをしながら、すぐ横の船着き場に停まる舟に目を向けた。

そこには、
にっこりと馴染みのある顔。


「――ビビ!?…さん。」

驚いて…
一瞬だけ素に戻った。

しかし、すぐに「さん付け」を足した俺に、ビビが大笑いしたいのを我慢していた。


「……お買い物…ですか?」

「はい、明後日から新しく学校に入る子供たちの準備を…」

舟の中には、
レンを含めた子供が3人。


「…そうでしたか。」

聞いてねぇぞ。
と眉をあげながら敬語を話すと、ビビは含み笑い。
そわそわと、レンが舟の上で俺に笑顔を向ける。


「――お父さ……リュウ様!今日は早く帰れる!?…ぁ、お仕事早く終わ…りますか?」

周りの目を気にしながら慣れない敬語を使う様に、思わず苦笑した。


家の中では「お父さん」。
勿論甘えて良い。
しかし、
外では協会の幹部。

俺の態度の違いに、
ビビや周囲の様子に、
幼いながら学習しているのだ。


「…今日は…この通り準備がありますので…どうでしょうねぇ。」

そう答える俺に、
残念そうに溜め息を漏らす子供たち。


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