記憶 ―黄昏の蝶―


その昔、
俺は闇休みが大嫌いだった。


「リュウ、此処に座りなさい。」

院長室に呼び出された幼い俺は、ふて腐れて渋々じぃさんの前の椅子に座った。

じぃさんの手には、
俺が怒りを込めて丸めた紙屑。

この時ばかりは、
優しかった「お父さん」も厳しい瞳をして怒っていた。


「…何度目じゃろうな?」

「さぁ?」

俺はその紙屑から瞳を反らす。

白い厚手の紙。
闇休みの、絵画の宿題。


「3度目じゃよ。」

「ふぅん?…へぇ?よく数えてたね、父さん。」

俺は俗に言う反抗的な、冷めた瞳をした面倒な子供だった。
でも、じぃさんは見捨てる事はしなかった。


「…この紙が、どうやって作られるか、リュウは学校で習ったじゃろう?」

「この土の無い水場ばかりのこの世界で、どれ程に紙が貴重な物か。どれ程、皆が苦労して材料を集めとるか、知っているじゃろ…?」

じぃさんは、感情をあまり表に出さない人だった。
静かに怒る人だった。


「…こっちを見なさい。わしはお前に質問しとる。リュウ、答えなさい。」

その瞳を見るのが怖かった。
怒りの向こうに愛情と優しさが見えて、泣きそうになるのが怖かった。

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