記憶 ―黄昏の蝶―
「――知ってるよ!土が無いから木が育たない!植物が無いから、水場の底に生えてる水草を採ってきて使うんだろ!」
「あぁ、大変な作業じゃな?遥か底まで潜ってその水草を集めるのも、お前さんと同じ「人魚」の仕事じゃ…」
「……分かってるよ!」
じぃさんは、いつも俺に語り掛ける様に話した。
自分が悪いのは分かっていた。
「どうして、3度も同じ事をするんじゃろうなぁ?」
じぃさんは俺が丸めた紙屑を丹念に伸ばし、しわを手で擦りながら問い掛けた。
ただ、悲しかった。
「……描けないんだ…」
「絵が、かのぅ?下手くそでも誰も笑いやせんよ?」
「…ちが、……違う…」
幼い俺は、
小さな掌を握り締めて、
唇を噛み締めて、泣いていた。
「……無いんだ…」
「無い?」
皆は朝が来ると楽しそうに夢の内容を話していた。
その輪に入れなかった。
夢の内容を、見れなかった。
「…描ける物が、無いんだ…」
「……リュ…ウ?」
闇の季節。
子供たちは夢を見る。
それが当たり前の世の中で。
じぃさんも始めは驚いていた。
俺の様な前例が無いのだから仕方ない。
「…俺は、変なんだ!うわぁあぁ~ん…普通じゃないんだ!」