記憶 ―黄昏の蝶―
「今日、ジークが来てるんだ…」
幼いカイトが居間から俺とビビを連れ出して、薄暗い廊下でこっそりと告げた。
「え?ジークが!?」
「でもカイト、あんまり嬉しそうじゃないのね?」
カイトには父親が2人居た。
この孤児院の院長であるじぃさんと、実の父親であるジーク。
協会の中で働いている事は知っていたが、孤児院を訪れる度に気さくに色んな話をしてくれる彼が大好きだった。
「…今、ジークが院長室で「父さん」と話してるんだ…」
「それが?」
「あぁ!カイトが悪い子だから!後で怒られるわね!」
ビビはケタケタと笑った。
カイトは唇をつき出して渋い顔をしたが、すぐに普段の調子に戻った。
「…父さん、ジークに何を言ってるんだろ。リュウちゃん!覗くの、付き合って!」
俺の返事も待たずに強引に腕を引っ張り、院長室へと続く廊下を進む。
その俺たちを止めるのが、昔もビビの役目だった。
「…カイト!ダメよ!大人の会話は聞いちゃいけないのよ!また怒られたいの!?」
第50条。
『成人前の子供たちの夢を尊重せよ』
それ故に、
聞いてはならない事もあった。