記憶 ―黄昏の蝶―
前世が無い。
俺の夢は、
真っ白な世界。
一点の曇りも陰も無い、
眩しい位の「白」に囲まれ、
誰も居なければ、何も無い。
協会の幹部以上の職員にしか知らされていなかった、大昔に伝えられた今や薄れていた伝承。
協会が定める、
「光の子」とは――
神の住む光の元から、
人々を導く為にやって来た、
「神の使者」――
じぃさんは、呆然とする幼い俺たちにそう話したのだ。
勿論、俺には身に覚えも無ければ、自覚すら全く無かった。
それは今も同じだ。
当時「人魚」である事すら自覚が薄い、ただの子供だった。
だから、
その時のカイトとビビの言葉は、本当に嬉しかった。
『…それが、何?』
その様子を見て、
じぃさんも目を細めて優しく笑い、喜んでいた様子だった。
後からジークに聞いた。
じぃさんは協会の幹部の職を降りた後に、この孤児院を開いたのだ。
俺は成人するまでの期間、
じぃさんに色んな意味で守られて育った。
成人の日、
今度は恩を返す番だと思った。
「光の道」協会。
その道に入り、自分を晒し、
今度は俺がこの孤児院を守る。
そう自分で決めたんだ。