記憶 ―黄昏の蝶―
「よぉ、リュウ様?」
「…ジーク、ご苦労されているんですね?先日より白髪が増えていますよ?」
「……馬鹿な息子が居てね…」
ジークは今や俺の部下。
昔から知った仲に「様付け」される事に未だに慣れていない。
カイトへの苛立ちを、丁度現れた父親であるジークに向けて嫌味を込めたのだ。
「父親であるジークからも言って頂けませんか?しっかりと定職に就いてくれる様に…」
「…あれはあれで、リュウ様を心配してるんでね…。慣れれば可愛い奴でしょう?」
……可愛い!?
果たしてその表現が正しいかは闇の中に置いておき、確かに少しばかり感謝はしている。
「おや、相変わらずの親馬鹿ですね?ジーク。ふふふ…」
「いえいえ、リュウ様の孤児院の子供たちに向ける愛情を考えれば、私など足下にも及びませんよ?ふふふ…」
…食えない親父だ。
トーンを下げた俺たちの不気味な笑い声に、幸いにも気が付く住民は居なかった。
俺たちは表面上の笑顔を貫き、住民に会釈を繰り返しながら、
呟く様な小さな声で会話をしていた。
賑やかな人々が溢れる露店の最中、お互いの声を拾う事が出来るのは、「人魚」故の能力。