記憶 ―黄昏の蝶―


遺伝性では無い為、カイトは双子として生まれたが、父親であるジークは「人魚」だった。


人魚の聴覚は優れていた。

水の中で広い範囲の音を拾う為になのか、その理由は明らかになっていないが、人魚とはそういう人種なのだ。


「…真剣な話さぁ…、リュウ。」

「うん?」


普段から、という訳ではない。

何でも隔てなく全てが聴こえていたら、それは酷く疲れるだろうし、人魚の全てが頭痛持ちになる。

陸の上で、沢山の音の中から「特定の音波を拾う事が得意」という表現が正しい。

今は、お互いの声の音波を拾っている訳だ。


「…カイトが土売りなんて仕事をしているのは、やっぱり…未だ例の事にこだわっているからなのか…?」

「例の事?」

「自分の母親と双子の兄を亡くした理由だよ…」

カイトは幼い頃、ジークに連れられて孤児院にやって来た。
協会の仕事で家を空ける事が多く、幼いカイトを独りには出来なかったのだろう。


「…あぁ、土にこだわる理由はそれだけじゃねぇけど、その内の1つだろうなぁ…。」

釣られて雑になった俺の言葉を聞いて、ジークは「そうか」と困った様に笑った。


カイトが土売りを続ける理由。
少なからず、3つ在る。

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