記憶 ―黄昏の蝶―


「…おぉ…」
「あぁ、光だ…」

住民たちが歓声を上げ出した頃、闇夜はうっすらと灰色に染まり始め、やがて徐々に白さを増していく。


「光」の季節が来た。

街の建物の隙間から、ゆっくりと白く輝く大きな球体が空一杯に現れた。


繰り返される2つの季節。
1年置きに行われる年明けの儀式だ。

次に住民たちに向けられる、法皇の台詞も同じだろう。


『「…あぁ、神はこの地を見捨てずに、再び我らの空にお戻りになられた!有り難い事ですね…。光の季節、皆に祝福が降り注ぐでしょう…!」』

カラン、カラン…


広場は空から注ぐ光に覆われ、
青や橙色のランプの光はそれに飲み込まれ、色を無くした。

眩しくて目が眩む。

眩しさに瞳を手の先で覆いながらも、そこにいる誰もが笑顔で光を仰いでいた。


「…皆、光の季節おめでとう…」

法皇がそう言うと、
住民たちは思い思いに拍手をし、広場は喜びに満ちていた。


あぁ、終わったか…

来年は闇の季節を迎える為に、この逆の催事をする。

俺たちの準備は同じ。
白い光が去る瞬間を皆で共有し、広場が闇に包まれた後にはランプに色が戻るのだ。

毎年その繰り返し。

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