記憶 ―黄昏の蝶―


眩しい昼間は久々の事で、
照らされた街の景色に溜め息を漏らした。

あぁ、そうだ…
本来のこの街はこんなにも美しかったのだ、と。

水面は白い光を反射して、きらきらと輝いていた。


「…リュウ様はいつでもお忙しいですねぇ…。やっと広場の片付けが終わったばかりだというのに…」

ギィ…ギィ…

協会の馴染みである舟師は、手慣れた動作で俺を乗せた舟を水路に進めていた。


「ふふ、光の季節の始まりは、皆さんが張り切って活動的になる…。私が忙しい事は、喜ばしい事ですよ…?」

俺は舟師にそう返した。


水路には、沢山の他の舟。
物売りの舟からは張り切った商売人の声が飛び交い、お客もまた舟で横に乗り付ける。

ガヤガヤと活気付く。

狭い陸地では、どこの家庭でも母親たちが張り切って、家の中から家財を出し、光に当てて日乾しする姿が目立つ。

その周りでは、子供たちが少ない大地を駆け回っている。


「…しかし、まぁ…。10番地でのお仕事中に、協会からの呼び出しとは…、リュウ様は街中を行ったり来たりですなぁ。」

「ははは…。舟師様にも御苦労を掛けて申し訳ないです…」

「いいえ!」

舟師は汗をかきながら、それでも楽しそうに笑った。

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