記憶 ―黄昏の蝶―
面倒くせぇ…
じじぃ…俺に用があるなら、
てめぇで来いよ…
そう俺が思う事は必然。
協会本部の1番地から、街外れの孤児院がある16番地まで、俺は帰らなきゃならない訳だ。
光の季節は水路に居る舟師も多いから助かるが、それでも何処かで舟師を乗り換えての帰路になる。
それか、人魚である事を有効利用して泳いで帰るか、だ。
「…あー…疲れるから極力は避けてぇなぁ…。」
「…やっぱ…カイトを俺様の専属の舟師にしてぇなぁ…」
そしたら気も遣わずに、
こき使ってやれるのに…。
街の喧騒の中を良い事に、俺はボソボソと小さく独り言を繰り返していた。
「法皇様がお呼びとは珍しいですねぇ、リュウ様?リュウ様がこの時期にお忙しいのは誰よりも解っているでしょうに…」
ふいに舟師に話し掛けられ、俺の表情にぱっと明るさが戻る。
「――えぇ、何でしょうね?忙しいのは御理解頂いているでしょうが、法皇様もご老体ですから、なかなか街へ足を運ぶ事も困難ですし…。若い者が足を運びますよ…」
…ぁ、やべ。
ちょっと切り返し方を間違ったな…と、法皇への敬意が欠けた台詞を舟師に突っ込まれやしないか少し焦った。