記憶 ―黄昏の蝶―
じじぃとお揃い。
それが俺を憂鬱にさせた。
幹部までのケープは上半身が隠れる程度だが、じじぃの場合は長さが足下まである。
この法皇に近い俺の外見から、住民たちは俺に敬意を払うのだろうが、俺の信仰心は実は紙切れ位に薄っぺらい。
「…おっと!」
舟師のそんな声と同時に、コツンと何かが舟底に当たった。
「…おや?」
「――痛いなぁ!気を付けろよ、舟師のおじさん!」
水面から顔を出し、頭に手をやる少年が居た。
「おぉ、悪い悪い。」
人魚だ。
少年は人魚である事を楽しみ、泳ぎたい盛りなのだろう。
闇の季節は水の中も暗く危険な為に、子供たちが入る事は禁じられている。
光の季節が来てやっと解禁され、お楽しみ中だった訳だ。
「こらこら、気を付けるのは貴方の方ですよ?」
俺は舟から身を乗り出し、少年に声を掛けた。
「はぁ!?…ぁ、リュウ様だ…」
どうやら反発する気だったようだが、俺の顔を見ると急にしおらしくなる。
「水路では、どちらが優先でしたか?若い人魚くん?」
「ごめんなさーい」
そう言い残すと、少年はさっさと水面に逃げ込んだ。