記憶 ―黄昏の蝶―
優先されるのは舟師。
従って、舟師の親父が謝る必要は無いのだ。
人魚は水の中も自由自在。
深く潜れる俺たちは、水路では舟から距離を取って泳ぐ。
「はは…若いですなぁ。」
「ふふ、私にも昔…覚えがありますよ。ところ構わず泳いで、よく怒られていましたねぇ…」
「おや。では、私が幼いリュウ様を叱った事もあるかもしれませんね?」
「えぇ、そうかもしれません。」
実は覚えがあるのだが、今の俺の立場上、親父が気に病むといけないので口を閉ざした。
親父と楽しく会話をしながら、俺は1番地を目指した。
協会本部に着くと舟師に別れを告げ、法皇の元に急いだ。
まぁ見せ掛けだけの「急ぐ」だ。
気の良い舟師は「帰路に着くまで待ちましょうか」と言ってくれたが、じじぃの用件も解らないので帰って貰った。
「はぃはぃ、着きましたよっと」
協会本部とは言え、聞こえだけは良いが、そんな大層な建物では無い。
水場に在る島自体が大きく、建物もデカイが、外観は地味。
大昔から在った様で、法皇のじじぃと同様に色んな所にガタが来てる。