記憶 ―黄昏の蝶―
しかし、俺は知っている。
只の瞳の病だと。
法皇の視力は弱くなっていた。
もう杖の助けが無ければ歩けず、催事位にしか表舞台には立たない。
「…ここへ…」
法皇は自分の座る前に、俺を招き入れた。
「何でしょう…」
「ちょっと、騒ぎがあってな…」
あぁ、嫌な予感。
あぁ、嫌な予感…。
「騒ぎ、とは…」
「光の季節になり、人魚たちが水中深くに潜り、例年通りに資材を集めていた最中…」
「はぁ」
いつもの事だ。
紙を作る水草や、街の建物を作る為や修復の為に使われる貴重な「土」もまた、人魚たちが水中の土壌から集める事が多い。
「毎年採っている場所は資材が尽きつつある。それで今年は、手付かずのこの1番地に潜らせてみたのだよ…」
「……はい?それは禁じられているはずでは…!?」
神聖な協会本部。
この1番地には、あるがままの自然を残し、人の手を加えてはいけないと誰もが守ってきたのに…。
古い土地。
かつて2番地に潜り土壌を削っていた事があるが、その際に2番地の島の半分が崩れ落ちた。
その教訓から、民家などの建物が少ない周辺の水場を採掘場としてきたのに…。