記憶 ―黄昏の蝶―
「人魚は無事に帰ってきたよ。しかしな…誤りだったのだ。我々は知るべきでは無い事を知ってしまったのかもしれない…」
「…な、何の事ですか…」
法皇は淡々と語りながら、時折頭を抱える様な仕草をした。
「…この建物の中心へ続く深い底…。洞窟の内部にな、氷漬けの人間が居た、と言うのだ…」
…氷漬けの、人間…?
「…は?……あぁ。ついには、ボケたか?じじぃ…?」
ははは、と俺は笑った。
「……リュウ。言葉遣いが成長しとらんな。仮面が剥がれてるぞ?ボケとりゃせんわい。」
「いやいやいや…!じじぃがボケたとあっちゃ、仮面被ってる場合じゃないだろ。」
「だから、ボケとりゃせん。全く…最近はちょっとはまともに成長したかと思えば、お前は…」
法皇はブツブツと小言を言いながら、溜め息を漏らす。
「――……嘘だろ?」
「お前に嘘をついてどうする。真実を言っておる…」
「……洞窟に?氷漬けの?何?」
半笑いの俺を見る法皇の白い瞳は、笑っている俺が滑稽に思える程に真剣だった。
俺が真顔に戻った頃、
法皇は、静かに言った。
「――人柱、かもしれん…」