記憶 ―黄昏の蝶―


例えば陸地で同じ状況にあったなら、俺は間違いなく叫んでいただろう。

いや、驚き過ぎて、
声も出せないかもしれない。


「……!?」
「――………!!」

互いの服を引っ張り合い、
声にならない思いを動作だけで俺たちはぶつけ合った。


「人柱」が、
氷の中で、生きて動いている。

有り得ないし、
意味がわからないし、
正直言えば、これは怖いし!

だって、
大昔の人柱のはずだろう!?


『――……して…』

水の中だというのに…
声が聞こえた気がした。

「まさかだろ」と思いながら、氷の中に目を凝らすと、


『――出して下さい!』

恐らく…
しっかり目が合ってしまった。

……は?


『…逃げる途中だったんです!急に冷気に閉じ込められてしまって…!お願いですから、出して下さい!』

明確に、
すがる声が聞こえた。


待て待て…。
氷の膜の中は、酸素がある?
だってなぁ、喋ってる…。

こいつが、人柱?

だって見た限り若そうだし。
落ち着いて考えれば、大昔からずっと生きている訳が無い…。

じじぃの情報は誤りだ。
昨日、この洞窟調査に入った人魚は何名なんだ!?

取り残されたんじゃないのか?

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