記憶 ―黄昏の蝶―


協会の舟着き場へ戻り、
俺とジーク2人掛かりで、閉じ込められていた人物を陸地へと引き上げた。


ジークは水面に出るとすぐに、水を吐き出して俺に怒鳴った。


「――リュウ!お前、何考えてんだよ!!法皇の許可なく、こんな勝手にっ!」

コイツを連れ出した瞬間から、違和感は感じていた。

肺から水を出し、
俺はあれから初めて声を出す。


「――…コイツ、人魚じゃなかったの…?…あれ?」

連れてきた人物は、
「酸素不足」で気を失っていた。

つまり、人魚では無かった。
つまり、調査隊では無かった。


俺は慌てて、気を失う横たわる若い男の顔を再度しっかりと確認した。
知らない顔だった。

つまりは…

「……コイツ、…誰?」

本当に「人柱」かもしれなかった男を、俺の勘違いで、許可なく勝手に洞窟から連れ出してしまった訳だ。


息はしているが、
男は気を失ったままだった。


「……声!ジーク、コイツの声を聞いたよな?助けてって…」

「――はぁ!?声なんて何も聞こえなかったよ!お前が急に氷を割り出すから!止めたのに止まりゃしないし!…どうすんだよ…、ヤバイぞ、これ…」


穏やかだった街に、
変化が訪れようとしていた。

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