記憶 ―黄昏の蝶―


法皇は怒りに震えていた。

只でさえ高血圧なのに。
俺が殺してしまう形になるのは夢見が悪くなるから勘弁して欲しい。

まぁ、俺は内容のある夢は見ないのだが。


「……申し訳…ありません…」

「――謝って済む問題では無い!!ジーク!お前が付いていながら!何故リュウの暴走を止めなかった!?」

「……はぁ」

「――協会の!この世界の!歴史に関わる大きな問題になるぞ!?解っておるのか!」


不思議な光景だった。

青い絨毯の上、
じじぃに怒られる俺たち2人のすぐ横で。

「人柱」が、
ニコニコと笑っていた。

歴史上大変な事になっているのだろうが、あまり深刻になれないのは、コイツのせいだ。


「…しかし御言葉ですが、コイツは人柱なんかじゃないと、本人が言っておりますが…」

俺がそう法皇に言うと、コイツは何回も首を縦に振った。

その様子を、俺は珍獣を見る様な気分で眺めていた。


「――リュウ!神聖な人柱様に向かって『コイツ』呼ばわりとは何事か!!」

「…申し訳…ありません…」

もう法皇の怒りが鎮まるのは、大分先の事になるだろう。

しかし俺は断じて「神聖な人柱」だとは思えずに、謎の人物を眺めていた。

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