記憶 ―黄昏の蝶―
コイツは言葉を話せなかった。
やはり、あの時ジークにはコイツの声が聞こえていない事になる訳だ。
しかし、だ。
『…人柱様などと呼ぶのは止めて下さい。僕にはそんな覚えは無い。僕の名は、ユピテル。』
「……コイツ…ぅんん。彼の名はユピテル君、だそうです…」
俺には何故か声が届いていた。
「ほぅ…ユピテル様!」
面倒だ…
伝達係は嫌いだってのに…
「ユピテル様は人柱でないと申す。では、光から遣わされた神の使者様でしょうか?」
法皇はそう聞いた。
唯一救われたのは、こっちの言葉は聞いて理解が出来るって事だ。
ユピテルは首を横に振る。
「では、何故このリュウにだけ貴方様の言葉が理解出来るのでしょう?やはり『光の子』だからなのではないかと…」
ユピテルは『さぁ?』と、にこやかに首を傾げた。
本当に「さぁ?」だ。
全くをもって迷惑な話だ。
法皇はユピテルを神聖な人柱やら神の使者だと信じて疑わないし、「光の子」だという俺まで話の引き合いに出してきた。
法皇の血圧は上がりっぱなし。
俺に対する怒りと、
信仰してきた神聖な「何か」が目の前にいる興奮。
ちょっと、
落ち着けよ、じじぃ。