記憶 ―黄昏の蝶―
「貴方様は長年、この地下の洞窟で氷に覆われて存在し続けていた…。それは確かでございましょう?」
法皇の興味は尽きなかった。
まぁ、協会職員にとっては夢の様な有り難い話なんだろう。
「貴方様が神の使者様でなかったら、どこのどなただと申すのでしょう。氷に覆われたのは、何時の事でしょう?やはりカロリスに起こった大昔の天災の最中でございましょうか…」
現に法皇の震える両手は、神に祈る形で胸の前に組まれたままだ。
…温度差。
信仰心の薄っぺらい俺は、ケロリとこの場に立っているし、
当の本人もまた、首を傾げて困った様に笑っている。
ジークはその温度差の間で、どうして良いか分からずにオロオロと首を動かしていた。
『…確かに僕が氷に覆われた時には、上にはこの協会と呼ばれる建物は無かったはずです。それが大昔なのかと問われると、よく分かりません。僕は眠っていた様です…』
俺は渋々、
法皇を喜ばせてしまう、更に血圧が上がってしまうだろう言葉を伝えた。
「――…何と!!やはり!!」
ほら、喜んじゃったよ…
「しかし、どうした事でしょう。人々に伝えるべきかどうか…。混乱を招くか…、しかし喜ばしい…。」