記憶 ―黄昏の蝶―


「…では…、舟師様。貴方の帰り道、途中までで構いませんから…」

そろりと「品良く」、男の舟に足を踏み入れると…


「…ぁ、協会の方。…金首飾り…の方でしたか…」

そう声を掛けられ、白いケープの首元をサッと隠す。

…面倒くせぇ。
見られちまったか…

出そうになった舌打ちは我慢。


「まさか、金首飾りの方とは…。こんなボロ舟で申し訳ない…」

「…あぁ、どうかお気になさりませんよう…」

金色の首飾り。
これもまた協会の支給品。

白いケープは脱ぐ事が出来ても、これは一度付けられたら自分では外す事が出来ない。
協会の犬。
その証しとも言える。

首飾りの色は様々で、
その色によって、くだらない地位が決められているのだが…

これが、微かに自ら光を放つ事が厄介なのだ。
暗い闇の季節では、隠す事がなかなか難しい。


ギシッ…

軋む音をたてながら舟に座り込むと、操縦する舟師と向き合う形となる。

舟師の前には、
布に隠された沢山の荷物。

あれ…?
「舟師」ではなく、
これは物売りの舟なのか…

灯りも灯さず、ひっそりと終業時間外に進んでいた舟。


何か怪しいな…
面倒な相手じゃなきゃいいんだが…


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