記憶 ―黄昏の蝶―


…だよなぁ。
コイツがカロリスの人柱になったのが伝承通りなら、遥か大昔の事。
じぃさんが居る筈がない。


『…あぁ、すみません。人違いでした…』

「やっぱり人違いだそうだ。……ぁ、コイツの言葉が分かるのは、何故か俺だけらしい。それで、…こうなった…」

俺の顔が曇った。


じぃさんは、
やはり法皇のじじぃとは違う。

神だの光の子だの、そんな話には一切ならなかった。

コイツの様子を観察しながら、違う糸口で話を聞いていった。

孤児院の子供たちに接するのと同じ様に話し、ユピテルもまた、じぃさんの前では普通の青年だった。


「…お前さんが氷漬けになった時の、この星の様子はどうじゃった?カロリスは…この水場は無かったのかのぅ?」

『この星の様子…。うろ覚えですが、確か…以前は緑溢れる豊かな大地でした。草木に溢れ、蝶々という昆虫が飛び回り…』

「…ほぅ、蝶々?確かに古い伝承には残っておるが、今のこのカロリスには無い物だ。わしは前世の夢でしか見た事が無いのぅ…」

『光の季節には、花から花へと自由に飛んで行く蝶々が、沢山いたはずです。』

…へぇ。
緑溢れる大地、飛び回る昆虫。
カイトが聞いていたら喜びそうな話だ。

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