destiny
二人の夏目


「運命的な出会いがしたい。」

私が呟くと大樹は顔をしかめた。

「なにそれ。」

「海で落とし物を拾ってもらうとか。電車で痴漢から助けてもらうとか。」

大樹はマックのシェイクをズズッとすすった。

「俺たちが同じクラスになって、隣の席になって、仲良くなったのも運命なんじゃないの。」

「どういう意味?」

「ようは物の考え方ってこと。運命といえば、この世の全てが運命で出来てるって意味。」

「なんか哲学的。」

らしくない。私は冷めて固くなったポテトをつまむ。

「お前はただ偶然の一目惚れみたいなのに憧れてるだけだ
ろ。そんなの滅多にないから。」

「酷くない?少しくらい夢みたっていいじゃん。」

私は口を尖らせる。

「それより俺らが二人とも夏目だってことのほうが運命だろ。」

夏目大樹と夏目早織。高2になって同じクラスになり、隣の席になった。おんなじ名字がうちの学年にいるのは聞いたことがあった。でもまさか同じクラスになるとは思わなかった。

「でも同じ名字って不便じゃん。先生から指されたときどっちか分かんないし。みんなも呼びわけ困るし。」

「結婚した時に名字変わんなくてすむじゃん。」

大樹は時々ドキッとさせることを言う。でも飄々としてるもんだから反応に困る。

ちょっとトイレ。と私は逃げる。鏡にほんのり赤くなった私がうつる。なんで。大樹はただの友達だ。それ以上でもそれ以下でもない。...はず。
< 1 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop