destiny
二人の夏目
「運命的な出会いがしたい。」
私が呟くと大樹は顔をしかめた。
「なにそれ。」
「海で落とし物を拾ってもらうとか。電車で痴漢から助けてもらうとか。」
大樹はマックのシェイクをズズッとすすった。
「俺たちが同じクラスになって、隣の席になって、仲良くなったのも運命なんじゃないの。」
「どういう意味?」
「ようは物の考え方ってこと。運命といえば、この世の全てが運命で出来てるって意味。」
「なんか哲学的。」
らしくない。私は冷めて固くなったポテトをつまむ。
「お前はただ偶然の一目惚れみたいなのに憧れてるだけだ
ろ。そんなの滅多にないから。」
「酷くない?少しくらい夢みたっていいじゃん。」
私は口を尖らせる。
「それより俺らが二人とも夏目だってことのほうが運命だろ。」
夏目大樹と夏目早織。高2になって同じクラスになり、隣の席になった。おんなじ名字がうちの学年にいるのは聞いたことがあった。でもまさか同じクラスになるとは思わなかった。
「でも同じ名字って不便じゃん。先生から指されたときどっちか分かんないし。みんなも呼びわけ困るし。」
「結婚した時に名字変わんなくてすむじゃん。」
大樹は時々ドキッとさせることを言う。でも飄々としてるもんだから反応に困る。
ちょっとトイレ。と私は逃げる。鏡にほんのり赤くなった私がうつる。なんで。大樹はただの友達だ。それ以上でもそれ以下でもない。...はず。
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