図書室の白川さんー星ヶ丘高校絵巻ー
オレは両の手のひらにワックスと塗りたくると


たっぷりと時間をかけて、髪の毛を手櫛しで整える。


明るい茶色に染めた髪の毛の中に


指を突っ込んで、無心に鏡の中の自分と向き合う。


月曜日は、とくに意識して気合いをいれないと


どうしたってテンションが下がってしまう。


髪を整えるのはオレにとって儀式みたいなもんだ。


朝の、大切な時間なのだ。


「みつる!!もう時間ないわよ!!そんな時間のかかる頭なら

坊主にしちゃいなさい、坊主に!!」


…大切な時間だっちゅーに。


オレは、へいとかほうとか適当に答えつつも髪の毛を整える。




「大体、三年生にもなってその頭はなんなの!そろそろ黒に戻しなさい!

受験生なのよ!自覚あるの?まったくあんたって子は本当に…。」


出勤前のかーさんのイライラが限界値に達したようだ。

まあ、長時間洗面台を占領しているオレが悪いんだけどね。

かーさんは、オレの横から強引に鏡を覗き込むと

乱暴に化粧を済ませた。


おいおい、眉毛曲がっちゃうよ?


かーさんは気にする風もない。


「あら、やだっ!もうこんな時間!みつる、ここに弁当置いとくから!

戸締り、よろしくねっ。」


「りょうかーい。」


乱暴に玄関の扉を閉めると音がして、オレは首をすくめる。



やっと静かになった。


台所のテーブルに、巨大な弁当がぽつんと乗っかっている。


「あざーす。」


オレは独り言みたいに言って、弁当を鞄にしまった。
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