図書室の白川さんー星ヶ丘高校絵巻ー
河本先生は、アラフォーの独身女性だ。


「センセー、早く嫁いかねぇといき遅れるよー。」


と秀真としょっちゅう、からかう。


河本先生はメガネの奥の細い目を吊り上げ


「あんたたちが心配かけるから、いかれないのよっ!」


と、憎まれ口をたたく。


決して美人ではないし口は悪いけど、面倒見がよくてオレはけっこー好きだ。


親しみを込めて、オレたちは「あけみちゃん」と呼んでいる。


「あれ、あけみちゃん。図書室の先生だっけ?」


「そうよ。図書委員の受け持ちだからね。あんた、なんか用?」


なんか用って…


冷た…



ふと見ると、あけみちゃんの横に白川さんと、もう一人名前の知らない白川さんと


同系の女子がちんまりと座っていた。


「あ、白川さん。この間は、どうも。」


サラリーマンみたいなあいさつをすると、白川さんはびっくりしたような表情のまま


小さく頭を下げた。



となりの女子もびっくりしたようにオレを見ている。名札には濃紺のライン。

二年生だ。


白川さんは、夏服をきていたのでネクタイは締めていないが


白いシャツの袖に、くっきりアイロンの線がついていて


やっぱり、ものすごくきちんとした印象だ。


黒い重たそうな髪を二つに括っている。


それにしても。



…オレ、そんなに図書室に似つかわしくないのだろーか。


ちょっとショック。


「別に用ってわけじゃないけど、オレが図書室来たらそんな変かな。」


「変、変。すごく、変。ほんと雪降るわ。それより、あんた進路調査票

出してないでしょ。もう締切過ぎてるんだから、さっさと出しなさいよ。」


あけみちゃんは、早口でまくしたてる。


オレは下唇をつきだして肩をすくめた。


「本を、読もうと思ったんですー。白川さんが、本が好きって言ってたから

もしかしたら、ここにいるかなーと思ってきてみたんですー。」


オレの言葉に白川さんが、小さな目をぱちぱちさせる。





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