図書室の白川さんー星ヶ丘高校絵巻ー
まだ借りるつもりか



という思いは、白川さんも同じだったらしく


白川さんは、ちょっと困った様子で視線をす、とそらす。


「なんかさー。ほかにない?」


オレはしつこく言ってみた。


ふ、と小さく息を吐いてから白川さんは席を立った。


この間と同じように、白川さんはすっすっと書架の


間を歩き回る。


時々、本に手を伸ばしかけてやめたり首を傾げたり


しているので、この間よりちょっと悩んでいるみたいだった。


「これ…。どういうのがいいのか、よくわからないけど。」




 「おとうと」 幸田文



 「掌の小説」 川端康成




おお…。


またもや、まったくおもしろくなさそうな…。


オレは手渡された二冊の本をしげしげと眺める。


こうだぶんは知らないけど、川端康成は


さすがのオレも知ってる。


でもすごく長いよ?



「私、幸田文がすごく好きで、えと、幸田露伴って知ってる?その人の娘さんで、

これもよく入試とかで扱われるから、それで…。

川端康成のやつは分厚いけど、一つ一つはとても短いので読みやすいと思う。

川端康成ってなんとなくとっつきにくい感じもあるけど、でもやっぱり日本語が

とてもきれいで、ああすごいなっていつも思う…。」


こうだ、あやっていうのか。


白川さんは、この間よりさらに饒舌になって、オレに本を勧めてくれた。



「ところでこの間のスピーチコンテストはどうなった?」


どこまでも続きそうな白川さんの話の腰を折ってやると


白川さんは、目をぱちくりさせて顔を赤らめた。


二つに括った髪から、あらわになっている耳までが真っ赤だ。


「あ…あれは、夏休みの間にあるやつで、もう少し時間があるから…。」


白川さんは、うって変ってしどろもどろになる。


おもしれー。


オレはそっと笑いをかみ殺す。


「まだ格技場で練習してんの?」


白川さんはふるふると首を振った。


「見られて恥ずかしかったから、もうやめた。」


早口でそういうと、白川さんは逃げるようにカウンターに戻って行った。
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