図書室の白川さんー星ヶ丘高校絵巻ー
オレは時々、図書室以外でも白川さんを見かけるようになった。


見かけるようになった、というのは


今までだって、もちろんすれ違ったことはあるのだろうけど


まさに、秀真が言うとおり


彼女は空気なんじゃないかと思うほど、存在感がなく


地味で、目立たない。


だから、今まではオレは彼女の存在すら知らなかった。


暗いところで、目を凝らしてやっとその存在がわかるように


オレは、最近やっと白川さんをみつけることができるように


なったんだ、と思う。


たいてい白川さんは一人で、廊下のはじっこを


つんのめるんじゃないかと思うほど前かがみの姿勢で


すごいスピードで歩いている。


書架を歩く時の、あのすっすっとした感じじゃなく


なんか、こう鬼気迫る感じ?


話しかけてはいけない雰囲気すらある。


でも、オレはそんな白川さんに


「おーい。」


と手を振る。


白川さんは、びっくりしたように伏せていた顔を


あげると、ちらと視線だけこちらに寄越す。


ちょっとだけ、うなづくみたいに頭を下げると


もう、すごいスピードでオレの前を去っていく。


体育が終わったあととか、


たまたま廊下ですれ違ったりとか


オレは懲りずに手を振ってみる。
< 29 / 51 >

この作品をシェア

pagetop