タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」
背後から、寄り添うように耳元にささやかれるセルディオ王子の声。


あたしの心と身体がビクンと硬直した。


ブランの表情が一瞬、こわばる。


そして唇を固く結び、馬車に乗り込んでしまった。


「本当に、くれぐれもよろしくお願いしますわ。男爵夫人」


アザレア姫があたしの手を強く握った。


「男爵夫人の友情に、心から感謝します。あなただけが頼りですわ」


その信頼の言葉に、姫の手に、答えることができない。


姫の顔すら、まともに見れない。


あたしはうつむき、無言のままで腰をかがめて挨拶し、逃げるように馬車に乗り込んだ。


「兄上、どうぞお気をつけて。ご武運をお祈りしております」


「ありがとうセルディオ。姫、行ってきます!」


「男爵夫人、どうかご無事で。オルマ、夫人をよろしく頼みますよ」


「お任せください。姫さま」


ヒヅメの音が響き、ゆっくりと馬車が進みだす。


あたしは下を向いたまま、馬車の振動を体に感じていた。


スエルツ王子の顔も、オルマさんの顔も、見ることができないまま。


そしてもちろん・・・


ブランの顔も、見られないままに。


不安と、もどかしさと、気まずさと。


重苦しいものばかりが心に覆いかぶさり、こんなにも息苦しい。


チラリと、視線を上げてブランを盗み見る。


ブランはあたしの反対側に顔を向けて、窓の外を眺めていた。


その表情は、伺えない。


あたしはまた、下を向くしかなかった・・・・・・。


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