タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」
「まずいわブラン! 耳をふさいで!」


「大丈夫だ。オレはいま普通の人間の姿じゃないからな。あの妖術は効かない」


平気な顔で歌声を聴いている様子を見て、あたしはホッとした。


でもどうしよう。ここでこの大群に居座られたら、王子もオルマさんも探せないよ。


それに、ひょっとしたら集団で襲い掛かってくるかもしれないし。


だけどセイレーンたちはその気配もなく、ひたすら歌い続けるばかり。


歌声はますます高く大きく、波のようにうねる。


やがて空気がビリビリと震えだし、緊張し始めた。


歌は絶え間なく、より高く、より強く、より大きく鳴り響く。


荘厳な聖歌のように大気全体を包み込んだ。


周囲に反響する歌声を、あたしたちはまるで目で追うように見回す。


これは・・・この、異様な歌声は?


不安に包まれるあたしたちは、海水が細かく振動しているのを感じた。


あれ? なんだろうこの揺れ。地震?


でも海中で地震って、こんな風に感じるものなの?


――ユラリ・・・

身体が、大きく流された。


まるで向こう側から、誰かに強く引っ張られるように。


 ? 潮の流れ? それにしてもずいぶん急な・・・。


――ドンッ!!


いきなり、凄まじい勢いの激流に飲み込まれる。


瞬間的に、嵐のど真ん中に叩き込まれたように。


爆風に巻き込まれたような感覚。


抵抗するすべも、何がなにやらも、まったく分からない。


ただ翻弄される木の葉のように、あたしたちは意識を失った・・・・・・。



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