タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」
カメリア王国は今が春の真っ盛り。


目に鮮やかな緑の大地に、様々な色彩の石造りの家々が並んでいる。


広い草原に点々と散らばって、のーんびりと草を食べている牛や羊の群れ。


温かい風が、茶色いレンガ煙突の煙をゆっくりと空の向こうへ運んで行った。



心和むなぁ・・・。


水で一杯の桶の重さも、忘れさせてくれるような穏やかな光景だ。


そんなほのぼのモードのあたしの耳に、気分ブチ壊しの耳障りな声が聞こえてきた。


「おいミアン、ちょっとこっちで俺の仕事を手伝え」


「・・・はい。若だんな様」


バカだ・・・いや、若だんな様に呼び止められ、あたしは心の中で軽く溜め息をついた。


「若」だんなっていうよりも「太った腹の中年オヤジだんな」だけどね。



はいはい。言われた事は何でもやりますよー。


なにせあたしはこの屋敷の奴隷ですからねー。



でも今は、水汲みしてる最中なんだけど。


これをサッサと片付けないと

「湯浴みができないわっ!」

ってヒステリー起こす人がいるんだよね。


誰とは言わないけど、あなたの奥様が。


「ちょっと待って下さい。この水を運んだらすぐに・・・」


「そんなのは後にしろ。早く来いっ」


若だんな様が強引にあたしの腕を引っ張っる。


「あっ!」

―― バシャッ・・・!


桶を地面に落としてしまって、中の水が全部足元にこぼれてしまった。


・・・ちょっとなにすんの! せっかくここまで運んだのに!


水運びの往復作業って、すさまじい腕力と持久力を消費するんだからね!?

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