タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」
航海に不慣れなあたしたちに親切にしてくれた。


船酔いに苦しむブランを、ずっと看病してくれた。


セイレーンに命を奪われた臣下に対して心を痛め、さっきは、泣いているあたしを慰めてくれた。


あたし・・・スエルツ王子のこと、ちゃんと見ていなかったのかも。


ほんのわずかな一面だけを見て、全部知ったように思い込んでたのかも。


それってひょっとしてアザレア姫も同じなんじゃないかな?


「ねぇスエルツ王子・・・」

「・・・シッ! なにか聞こえない?」


王子が不安そうな顔で、忙しく視線をキョロキョロと動かしている


え!? なに!? なにか聞こえたの!?


あたしは、がぜん勢い込んだ。


「ブラン!? ブランがいたの!?」


「男爵かどうか分からないけど、確かに物音が・・・」


「ブラン! ブランーー!! ここよ!!」


「ちょっと男爵夫人、待って! やみくもに動いたら危険だよ!」


いきなり駆け出すあたしを止めようと、王子が慌てて追いかけてくる。


でもあたしはもう、いてもたってもいられない! 


ブランの姿を探して大声で叫びながら走り続けた。


―― ぬうぅ・・・


突然目の前に誰かが立ちはだかり、ぶつかる寸前であたしは立ち止まる。

ブラン・・・・・・!?


目を輝かせて見上げたあたしの表情は、次の瞬間、恐怖に引きつる。


そこには顔半分の肉が削げ落ちた、人間のなれの果てがあった。

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