タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」
セルディオとゾンビは、もつれるように床に倒れた。


――ギャアァ! グォォー!


どちらの声か判断のつかない奇声と悲鳴が、激しくほとばしる。


「セルディオ!」

助けに行こうとするスエルツ王子を、あたしは必死に押しとどめた。


「だめ! 今行ったら王子も襲われちゃうよ!」


「放して! セルディオが! セルディオが!」


「うわあ! うわあぁぁーーー!!」


「セ、セルディオーーー!!」


ゾンビたちのすき間から、助けを求めるセルディオの腕が伸びた。


恐怖と苦痛にわななく目も覗く。


「父上! 父上! 父上!」

セルディオの指先は、王さまに向かって伸びていた。


ゾンビたちの呻き声が響くたびに、その指がビクビクと跳ね上がる。


「父上! ちち・・・うえ・・・・・・!」


呻き声。


耳を覆いたくなるような咀嚼音。


断末魔の悲鳴。


痙攣する指。


あたしは目をギュッと閉じて、それらの音を聞き続けた。


今にも飛び出そうとするスエルツ王子の体を、懸命におさえ続けながら。


やがて・・・・・・


悲鳴が聞こえなくなり・・・・・・


痙攣する動きすらも・・・・・・


伸びていた腕も、ゾンビたちの中に引きずり込まれ、そして・・・


床に真紅の血が、撒き散らしたように広がった。


< 368 / 438 >

この作品をシェア

pagetop