タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」
肩を揺すり、くつくつと込み上げる声を噛み殺す。


片頬をつり上げ、歪んだ口元で彼女は言った。


「この男の血を引く息子であるお前が・・・『愛』?」


それは明らかに蔑みの表情だった。


目の中に暗い色をたたえ、彼女は断言する。


「わたくしも、かつては愛の尊さを信じていた。心から信じた結果、国も民も全て滅んだ」


そして・・・・・・


「そしてわたくしの子は・・・この男に、実の父親に殺された」


オルマさんの目から涙が一粒、こぼれた。


一粒。もう一粒。


左右の目から頬を伝い、彼女の胸元を濡らす。


こんなにも恨みに満ちた顔をしているのに・・・


彼女の流す涙は、切ないほどに透き通っていた。


真っ赤な両目を見開き、睨むようにオルマさんは語り続ける。



セルディオは父親の愛を切望するあまりに、身を滅ぼした。


あの白タヌキはお前を愛するがゆえに、一族を捨てることになった。


スエルツ王子とアザレア姫の、ふたりの愛情のもつれが、この惨状の手助けとなったのだ。



「愛! 愛! 愛!」


ボタボタと涙を落とし。


憎しみのこもった声で唾棄するように。


狂気のように、オルマさんは繰り返す。


「愛とはこの世の全てを狂わし、破壊に導くものなのだ! だから世界は・・・このまま滅びる!!」


「違あぁぁぁう!!」

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