タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」
ますます激しく波打つ動悸を、あたしは懸命に抑える。


あたしは貴族。実は貴族。ほんとに貴族・・・。


自分に暗示をかけ、何度もゴクリとツバを飲み込む。


カラ威張りするように胸を張り、列に並んで先に進んだ。


列の先端の貴族夫婦が扉を抜けた所で、そこに立っている執事風の男性に何かを渡す。


男性はシルバーのお盆に受け取り、うやうやしく声を張り上げた。


「ラグシット伯爵ご夫妻様、お成りー!」


・・・え?


次の貴族夫婦も、やっぱり執事に何か手紙のようなものを渡す。


すると執事はまた声を張り上げた。


「セドアル侯爵ご夫妻様、お成りー!」


・・・ヤバイ!! あれ、きっと招待状だ!!


考えてみれば当然だよ! お城からの招待なんだもん。みんな持参してるよ!


うああ、どうしようどうしようどうしよう!


当たり前だけど、んなモン持ってないよおぉぉー!!


カラ威張りしてた胸が、へにょんと縮こまってしまった。


ザーッと血の気が引いて、代わりにドーッと汗が噴き出す。


に、逃げる? このまま逃げますか?


・・・・・・いや、無理っ!


今さら列からコソコソ逃げ出したら、「あたしたち、不審者でーっす」って宣伝してるようなもん!

< 73 / 438 >

この作品をシェア

pagetop