恋文



ベンチの上に置いておけば、もしかしたら落とし主が拾うかもしれないし、例え落とし主じゃなかったとしても、心優しい人が交番まで届けてくれるかもしれない。

本当は拾ったアタシが届けるべきなんだろうけど、それは面倒だからヤダ。

「ん?」

ベンチに近付くにつれ、さっきの場所からは見えなかった人影が見えてきた。
陽炎の向こうにユラユラと揺れる人影は、だんだんとクリアに見える。

それはスーツを着たサラリーマンで、何故か木の下にうずくまっていた。
不審者だったら怖いから、放っておこうかとも思ったけど、こんな天気だ。
熱中症、なんてこともなくはないだろう。

アタシが近付いても微動だにしないサラリーマンが少し心配になって、恐る恐る声を掛ける。

「あの、大丈夫ですか?」

「………っえ!?」

何秒かの間をあけてから、声を掛けられたのが自分だと気付いたらしく、サラリーマンは慌てて顔を上げた。

サラリーマンは、アタシが思っていたよりも遥かに若くて、20代前半くらい。
風が緩く吹く度に揺れる綺麗な茶髪に、アタシを驚いたように見上げる黒い瞳。
白い肌と通った鼻筋。
耳には太陽の光をチカチカと反射するピアス。

普通にカッコ良いな。おい。

「大丈夫ですか?」

驚いたようにアタシを見たまま動かないイケメン君の前で、ヒラヒラと手を振って見せる。

すると、ハッとしたように、

「あっ、ごめん!ごめんね!人の顔をマジマジと見るのは失礼なことだって分かってるんだけど、君がスゴく可愛かったから、つい。ホントごめんね!怪しいもんじゃないから!」

と、あたふたと両手を顔の前で交差させる。

可愛いとか普通に言っちゃうんだ。
てか、あんたの方が何百倍も可愛いわ。

今も、ごめん!と繰り返しているイケメン君に「大丈夫ですよ。」と笑うと、イケメン君は安心したように「良かったぁ~」と笑った。

そりゃあもう、太陽のような、惚れ惚れする綺麗な笑顔でしたよ。


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