恋文
第2章
秋も通りすぎ、冬が近付く頃。
風も肌寒くなり、ついこないだまで赤く染まっていた葉も落ち始める。
外の風景と違い、アタシと悠哉さんとの関係は変わることなく、いつもと変わらない日常を過ごしていた。
悠哉さんは律儀に、アタシとの『サボるのは月に1回まで』という約束を守っていて、最近では土日に出掛けることが多くなった。
アタシも無表情体育教師との約束を守り続け、授業にも毎度出るようになった。
やっと高校1年までの授業はなんとか理解できるようになって、なんとなく授業の内容も分かってきた。
何になりたいとか、何処へ行くとか、まだ決めていないけど、大学へは行きたい。
ボヌールでのバイトも相変わらずで、シフトはなく、アタシが手伝える日は手伝う。
悠哉さんと玲二さんが初めて会ったのは大学の頃。
悠哉さんには高校からの友達がいて、その友達と玲二さんが知り合ったことによって、自然と悠哉さんと玲二さんも仲良くなったらしい。
玲二さんは、悠哉と友達じゃない、と態度は冷たいが、なんだかんだ言っても優しい。
悠哉さんが食べたがっていた砂糖たっぷりのモンブランを特別に作ってあげていた。
ちょっと微笑ましかった。
「本当、玲二さんってば優しいね。」
今も、アタシの為に苺タルトを作ってくれている玲二さんに声を掛ける。
「う・る・せ・え。」
「照れなくても良いよー!優しいって褒め言葉だし!」
「言っとくが照れてない」
玲二さんはアタシの褒め言葉を一刀両断。
「今日は祝日で店は休みだから来んなっつってんのに、勝手にやって来て苺タルトをせがむようなワガママお姫様に仕事を与えてやる。だ・ま・れ。」
「わーい!苺タルトー!」
アタシの目の前に苺タルトの皿を差し出す。
アタシが手を伸ばすとあっちは引っ込める。
え。なにこれイジメ。
「ちょっ、苺タルト下さいよ。」
「お前が黙ってくれるんならやるよ。」
「はいはい。黙る黙る。黙りますよーっだ」
「拗ねんな、ガキ。ほれ。」
「いえーい!」
念願の苺タルトを口に運びながらカウンターにいる玲二さんを見やる。
「玲二さん、祝日なのに何で店にいるの?出掛ければ?彼女いないの?」
「お前にだけは言われたくねぇよ。」
玲二さんは髪をグシャグシャと掻きながら、胸ポケットからタバコを取り出して、それに火を付けた。
煙がカウンターの周りを包み込む。