ガーデンテラス703号
「な、何いきなり!?」
香織の口から出てきた名前にドキリとした。
うっかり手が滑らせて、テーブルのスプーンを下に落としてしまう。
「どうしたの、あゆか。ホタルと何か進展あった?」
慌ててスプーンを拾い上げる私を見て、香織がニヤリとする。
雨に濡れた私にタオルを用意してくれたこと。
手作りのリゾットやハニージンジャーティー。
ダイニングでくしゃりと私の髪を撫でたホタルの手のひら。
一瞬、それらのできごとが頭に蘇ってきたけど、全部かき消すように大きく首を横に振る。
「な、何もないよ」
「えー。でも、元カレの話のときより動揺してない?」
「してないっ!」
全力で否定する私を怪しんで、ランチが終わるまでずっとホタルの話題を振ってきた。
それを必死で交わしながら、やっぱり昨日ホタルにしてもらったことを香織に話さなくてよかったと思う。
話したら、今日1日ずっと揶揄われるのが目に見えてる。
「怪しいなー。何かあるから、元カレの合コンの誘いを受けれないんじゃないの?」
「違うって」
「じゃぁ、合コンの誘い受けなよ。来週の土曜日空けとくし」
「考えとく」
最終的にそう返事せざるおえなくなってしまい、剥れてそっぽを向く。
そんな私を見て、香織が愉しそうに笑っていた。