ガーデンテラス703号


「ど、どうしてホタルが出てくるの?私は今、森岡さんのことを相談してるのに……」

慌てて否定したら、香織がクスクスと可笑しそうに笑った。


「あゆかこそ、どうしてそんなに過剰反応するの?」

「過剰反応なんて……」

そう言い返そうとして、スマホを握る手にやたらと力がこもっていることや、その手に熱がこもっていることに気づく。


「まず自分の気持ちがどこに向いてるかゆっくり考えてみたほうがいいんじゃない?」

香織にそんなふうに諭されて、私はそれ以上何も答えられずに電話を切った。


どこに向いてるかなんて言われても……

香織との電話を終えたあと、スマホを眺めてため息をつく。

とりあえず、気が進まないうちは、森岡さんからの誘いはやんわり断ったほうがいい。

それだけはしっかりと自分で決めて、失礼にならないように、感じ悪くならないようにといろいろ考えながらメッセージを作った。

文字を打っては消して、消してはまた打ち直して。

そうして、ようやくできあがったメッセージを何度も読み返す。

迷いに迷った末にようやく送信ボタンを押すと、言いようのない疲労感がどっと一気に押し寄せてきた。


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