ガーデンテラス703号


いつか、寝ぼけたホタルにソファーで抱きしめられたとき、彼が呼んだシホの名前。

どうしてホタルがシホの名前を呼んだのか。

私の中で、その理由が明確になる。


「ちょっとくらいいいじゃない、ケチ」

ふてくされた声でそう言って、シホが両腕をホタルの首に巻きつける。

そのまま、シホがホタルを押し倒してソファーに沈み込むのが見えて、私はそっと部屋のドアを閉めた。


見てはいけないものを見てしまった気まずさと、自分の恋の不毛さを知ってしまった切なさで、胸が苦しくなる。


あのときホタルがシホの名前を呼んだのは、彼が彼女のことを好きだからだ。


そしてそれは、たぶんずっと昔から。

シホが基さんをずっと思ってたように、ホタルもシホを想ってた。



いつか、寝ぼけたホタルにソファーで抱きしめられたとき、彼が呼んだシホの名前。

どうしてホタルがシホの名前を呼んだのか。

彼は、私なんかが好きになっても絶対届かない相手だ。


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