ガーデンテラス703号
森岡さんのおすすめのお店は、駅から5分ほど歩いた場所にある。
そこまでの短い道のりで、彼は私の手を引きながらいろいろ話しかけてきた。
「最近仕事はどう?忙しい?」
「んー、まぁまぁですかね」
「週末は、どこか出かけたりしてた?」
「そう、ですね。たまには……」
森岡さんは話題を変えていろいろと会話を広げようとしてくれてるのに、私のほうが会話を盛り上げるようなネタを持ち合わせていなくて。
会話が一問一答形式の質疑応答みたいになってしまう。
なかなか弾まない会話が一旦途切れたとき、ちょうどお店の前に辿り着いた。
「ここ」
森岡さんが指差したのは、「Luciole」という横文字の名前の外観がおしゃれな店だった。
今は誰にも使われていないけれど、小さなテラスがあってそこにもテーブル席がふたつほどある。
店の前に置かれた木製の立て看板には、おすすめのメニューやアルコールのメニューが手書きしてあった。