ガーデンテラス703号
朝からホタルと顔を合わせたことで、緊張と動揺を隠せない私と違って、ホタルはいつもどおり……
というより、いつも以上に普通な態度で接してきていた。
昨日、ホタルの店の裏で胸が高鳴るようなキスをしたのに。
あれは私の勘違い……?
ホタルがどんな態度をとれば満足できたのかは自分でもわからない。
だけど、なんだか悲しいような虚しいような。ひどく複雑な気持ちになった。
ため息を吐くと、もう片方のパンプスにも足を通して玄関を出る。
その瞬間、マンションの廊下に吹き込んできた冷たい隙間風がすーっと頬を掠めて、一気に沈んだ気持ちになってしまった。
昨日の夜。
ぼんやりしながらひとりでテーブルに戻ると、既に会計を済ませていたシホにそのまま店から引き摺り出された。
「ホタルの店じゃ、聞きたいことも聞けないから帰るよ!」
鼻息を荒くしながらそう言うと、シホが私を引っ張るようにして家まで連れ帰る。