ガーデンテラス703号

Room 703



「コーヒー飲む?」

日曜日の午後。

昼ごはんを食べ終えて、ソファーで雑誌を捲っているホタルに声をかける。


「あー、ありがとう」

振り向いたホタルに微笑まれた私は、ほんの少し頬を染めながらカウンターキッチンの奥へと身を隠した。


コーヒーは、ホタルが淹れてくれたほうが香りがよくて美味しい。

だけど、今日みたいにホタルが昼過ぎに仕事に出かけるときは、私が簡単なランチを用意してコーヒーを淹れる。

いつのまにか、それが週末の日課になった。

ホタルの見よう見まねだけど、コーヒー豆をミルで挽く。

挽いた豆を入れたフィルターの上からお湯を注ぐと、ふわっと芳ばしい匂いが漂ってきた。

それを鼻いっぱいに吸い込みながら、カウンターキッチンの窓からソファーに座るホタルの後ろ姿を見つめる。

土日も仕事があるホタルとはなかなか休みが合わないから、一日中一緒にいられる日は少ない。

だけど、束の間の穏やかな時間がとても幸せだった。



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