ガーデンテラス703号



しばらくしてシホがコーヒーを持ってきてくれた。

濃いめに淹れられたコーヒーを時間をかけてゆっくり飲んでから立ち上がる。

空になったカップを置きっ放しでいいのか悩んでいると、それに気付いたシホが私のほうに来てくれた。


「置いといていいよ。片付けるから」

「いろいろありがとう」

「こちらこそ、ご利用ありがとうございます」

手を添えて一礼したあと、顔を上げたシホが私の顔をじっと見つめる。


「何かついてる?」

「じゃなくて、口紅落ちてる。ちょっとだけ座って。それくらいなら私も直せるから」

シホはそう言うと、私の肩を突いて椅子に押し戻した。

そばに置いたままになっていた化粧道具の中から、さっきメイクの人が付けてくれた色のリップを取り出して、シホが塗り直してくれる。

上から少しグロスを重ねたあと、シホが私を見ながらにこりと笑った。


「できたよ。お誕生日デート、楽しんできてね」

シホに見送られて、私は少し照れながら美容室をあとにした。


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