ガーデンテラス703号



あー。やっぱり、ひとりでは無理だ。


「ま、また出直します」

男性スタッフの笑顔にパニックになった私は、咄嗟にそう口走ると、急いでエレベーターへと引き返した。

偶然扉を開けて待っていたそれに乗り込むと、ロビーがある階のボタンを連打して下へと向かう。

昇ってくるときはまだ見る余裕のあった夜景が、下りるときは全く目に入らなかった。

エレベーターを降りてロビーに戻ると、スマホを取り出してホタルに電話をかける。

だけど、ただ何度もコール音が続くばかりで、ホタルは電話に出なかった。


どこにいるの?何してるの?

電話が繋がらないことで、胸に一気に不安が押し寄せる。


楽しみにしていた誕生日デートだったのに。

少しだけど、いつもよりおしゃれしてみたのに。

ホタルがいなければ、意味がない。

うつむいてスマホを見つめていると、不意に後ろからポンと肩を叩かれた。


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