ガーデンテラス703号
「ホタル?」
やっと来てくれた。
そう思って、笑顔で振り返る。
「こんばんは。君、さっきからずっとここにいるよね?」
だけど、振り向いた視線の先にいたのはホタルではなかった。
細身のパンツの上に、見た目だけで質が良さそうだとわかるジャケットを羽織ったおしゃれな雰囲気の見知らぬ男を前に、私の笑顔が凍りつく。
「誰かと待ち合わせ?随分ここで待ってるみたいだけど、約束すっぽかされちゃったとか」
知らない男が、縁起でもないことを言ってくる。
ホタルに限って、約束をすっぽかしたりするはずない。
信じているはずなのに、さっき電話が繋がらなかったこともあって、男の言葉がグサリと胸に刺さった。
「すっぽかされてなんかいません……」
男から視線を逸らしながら反論したら、彼がクスッと笑って小さく横に首を傾げた。