memory
序章
「青い空が怖い」と彼女は言った。
聞いたときは何を言ってるのだろうと思った。でも今なら少し分かるような気がする。分からないけど。
俺は10年振りにあの街に帰る。
今は東京はそこそこの会社に就職でき、毎日が目まぐるしく過ぎている。
都会の空は狭い。空を見上げるなどまずない。
電車で1時間ちょっと。懐かしくも、随分と変わってしまった駅で降りる。
ふと空を見てみると、青々と果てしなく広がっていた。
空井陽子。彼女の名前のような空だと思った。
< 1 / 56 >