memory
帰り道。
「空井さんの家どっち方面?」
「あっち」
と彼女は指差す。
「じゃあ同じ方面だ。小学校、何小だった?俺は西小だったんだけど。」
「南小。」
「なら案外家近いかもね。」
それからたわいもない話を色々と振るがやはり彼女は素っ気ない。まるで話し掛けないでと言っているようだ。
「そういえばさっきのポスター、凄いね。絵も字も得意なんて羨ましいよ。本当に何でも出来るんだね。空井さんて出来ないこととかなさそう。」
そう言えば彼女は立ち止まってしまった。暗くて表情は見えない。
「私には誰もが当たり前に出来る事が出来ない。」
そう言った声は小さく震えていた。
「出来ないことって何?」
「…誰にだって言いたくないことの一つや二つあるものよ。」
そう言うと彼女は俺の方を向いて、
「送ってくれてありがとう。ここまでで平気だから。さようなら。」
と言ってさっさと歩いていってしまった。