風の声が聞こえる
家の裏手にまわって、大きな木のそばまで行った。みかんよりは小さく、きんかんよりは大きな、柑橘類が実っていた。


「あれは、生命の実って言うの」


おばあさんが、私の隣に並んで呟いた。ふくよかな身体に、着物がしっくりときていた。なんだか、舞台女優でこんな雰囲気の女性がいたな…と、古い記憶を辿ってそう思った。


良太くんと、初めてのデートでお芝居を観に行った…。その時に、主演だった女優に似ていると思った。


「これは、食べられるのですか?」


おばあさんに聞くと、和賀さんと顔を見合わせてから、呟くように言った。


「申し訳ないね、お嬢さん。この実は、この島に永住しないと食べられない」


「そうですか…」


「さぁ、次の配達に向かいましょう?」


和賀さんが、急かせるかのように私の肩を叩いた。


「はい。ありがとうございました。この島が気に入りましたので、もし、住みたくなった時には、食べに来ても良いですか?」


「住みたくなった時には…ね」


「はい」


私は、ほんのりと甘い匂いを吸いこんでいただきます…と心の中で呟いた。


< 22 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop