風の声が聞こえる
いや
自転車に乗って、元来た道を走った。
小さな図書館が見えてきた時、私は和賀さんに言った。


「図書館で降ろして下さい」


「わかりました」


図書館の前で自転車を降りると、和賀さんが言った。


「私はここで、失礼します。さっきの話、なんですが…」


「さっきの話?」


「永住したい…という話です。本気でそうお考えならば…」


和賀さんが、じっと私の目を見る。心の奥まで見透かされそうで、目をそらした。


「相談に、のりますから」


「ご親切に、ありがとうございます」


「いいえ」


和賀さんは、笑顔を残して帰っていった。笑顔、ではあったけれど、どこか哀しげに映った。


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