風の声が聞こえる
「自転車を…貸してもらえませんか?」


ひとりでこの島を、一周しよう。そして、答えを導き出そう…そう思った。


「宿の前にある、私の自転車でよければ…」


「ありがとうございます」


和賀さんにお礼を言って、ゆっくりと立ちあがった。赤い自転車に跨り、ペダルを踏みこむ。風の声が聞こえた気がした。


いや、これは私の声なのかもしれない。私自身が風にとけ込み、風になる日も遠くないのかもしれない。


そう思いながら、あの家に向かう。生命の実がなる、あの家に。


「こんにちは」


表から声をかけても、返事がない。家の裏手にまわると、大きな木を見上げるおばあさんの姿があった。


「あの…何をしているんですか?」


「あら?さっきのお嬢さん!今、生命の実を採ってもらっているの」


木がガサガサと揺れると、上からいくつか実が振ってきた。そして、若い男性が木をスルスルと降りてきた…。


「…綾…也?」


若い男性と、目が合った。生命の実を採っていたのは、自殺した綾也に間違いなかった。






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